東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)12号 判決
原告 津田秀雄 外四名
被告 特許庁長官
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
第一請求の趣旨
原告は、昭和十六年抗告審判第一、七〇四号事件について、特許庁が昭和二十六年三月三十一日になした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立てた。
第二請求の原因
原告は、請求の原因として、次のように述べた。
一、原告津田秀雄及び選定人津田吉康、津田良成、津田光明、津田昭(以下単に原告等と称する。)は、共同出願人となり、原告等の発明にかかる「和文字単一電報隠語作成方法」について、昭和十五年七月十日特許を出願し、(昭和十五年特許願第一〇〇二一号事件)次いで同年十二月十日明細書を訂正したところ、拒絶査定を受けたので、昭和十六年十月二十日抗告審判を請求したが、(昭和十六年抗告審判第一七〇四号事件)特許庁は、昭和二十六年三月三十一日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、右審決書謄本は、同年四月十二日原告等に送達された。
二、しかしながら、審決は、次の点において違法であつて、取り消さるべきものである。
(一) 審決は、「原告等の発明の要旨とするところは、結局和文字、数字及び記号等を適当に組み合せて、電報用の暗号を作成するものである。」と認定している。
しかしながら、右の認定は不実の空想を以て、「本件発明の要旨」なりと独断したものである。およそ「本件発明の要旨」と称せられるには、発明の全特性を列挙しなければならない。原告等の発明の特性は、在来のいずれの電報暗号によつても到底満足な結果を得られなかつた三つの大目的、(1)正当の受信人以外には、何人の判読をも絶対に不可能ならしめ、(2)電信局における送信の途中往々生ずる誤電に気付かずして、そのために欠いた作為または不作為行為に原因された、不慮の大不利または大損害の発生の危険を完全に防止し得、(3)電報料の節約に、従来以上の成果を必ず収め得る信号の獲得に成功した。
すなわち、(イ)数種の連続した数値またはそれら数値の離合機能を、暗号の直接表現対象とし、(ロ)各通信言語句を、その間接表現対象とし、(ハ)超天文学的大数字に上る非常に多数の変種暗号を有し、(ニ)使用全暗号の、(ホ)正確な、(ヘ)敏速な、(ト)容易な、(チ)経済的な、(リ)毎通信の、(ヌ)変更を、(ル)毎日の平均発信数を試に百通ずつと計算するも、(ヲ)なお裕に数万年以上にわたり継続し得る、(ワ)電報暗号組立並びに配列の順序に、何等の暗号電報規則の制限のない、そして料金計算上、暗号の一文字として承認される和文字、数字及び記号の、(カ)単一暗号の、(ヨ)発信人自身の、(タ)意識的組立による、(レ)各暗号電報をその通信目的に適合した種類と数の、(ソ)暗号状態中にもその各節の区分を明瞭ならしめた、(ツ)各電節に区分し、(ネ)同一の暗号もその使用電節の異るだけで、各別個の通信語句を表現せしめた、(ナ)暗号の作成即変更方法に関するものである。以上(イ)から(ナ)までの二十一の特性は、そのいずれを欠いても、前述の(1)(2)(3)の目的の全部または、その一部の達成を不能若しくは成果を減殺するものであつて、結局発明を破壊するものである。原告等の発明は、上記二十一以外にも、更に多数の従たる発明をも加えた、多数のいわゆる牽連発明の綜合的実施にかかるものであるが、少くとも右二十一の比較的主たる特性の殆んど全部を逸脱した審決のいわゆる「本件発明の要旨なるものは、全然事実に相違したもので、審決は、事実の確定を誤まつたものといわなければならない。
(二) 審決は、「その(原告等出願発明の)作成方法は、自然力を利用した手段(技術的手段)を施すことなく、単なる暗号による思想表現にすぎないから、特許法にいう工業的発明を構成するに到らない。」と説示している。
しかしながら右説示の前段、「自然力を利用した手段を施さない。」というのは、特許法学上における「発明」の一種の定義例えばコーラー氏の定義中の用語「自然力」は、その別種の定義例えばガライス氏の定義中の用語たる「科学の原理」をも意味するいわゆる「自然法則」または「外界」(または「自然界」)の材料(または物質)等の同意義語であることを忘れた謬論に過ぎない。すなわち、コーラー氏のいう「自然力」は、ガライス氏のいう「自然法則」の意義に外ならず、原告等の発明は、上記のように三大目的の達成に論理学及び数学の原理を利用し始めて成功し得たもので、これこそいわゆる自然力を利用した手段を施したものである。
(三) また審決の右説示の中段「単なる暗号による思想表現にすぎない。」というのは、すでに(一)で述べたように、原告等の発明が、在来のすべての電報暗号の到底達成し得なかつた、いわゆる三大目的の達成に成功した、主従多数の牽連発明の綜合的実施による、百五位の超天文学的な数字で始めて表明し得る多数の変種暗号を有する和文字可変暗号の作成方法に関するものである事実の認識を甚だしく誤つたものである。審決は、多年世界的に熱望されたにもかかわらず、未だ曾て成功しなかつた電報暗号の改良に成功した本件発明の特許能力の有無の審決の対象として、その改良以前の在来の電報暗号を使用したもので、違法である。
(四) 更に審決の右説示の後段「本件の発明は、未だ特許法にいう工業的発明を構成するに到らない。」というのは、法の運用上重要な部分をなす、いわゆる「事実の確定」を誤つたものである。すなわち、右前記(一)ないし(三)の各内容である審決の三拒絶理由は前提とした結論であるが、これは前提の全部が、皆事実の認識、法律の解釈を認つている以上、これから推論された結論が誤つたものであることは、いうをまたない。原告等の発明の一つである超億兆の多数に上る変種暗号の獲得を必然的に可能ならしめた事実は、数学の原理の応用以外には、到底よく立証し得ない、かかる特定の目的をよく達成した創造的思想こそ「発明」であつてこれを包含することができないような発明の定義は、不完全であつて改正されなければならない。原告等の発明のように、その特定の目的の達成を数学的及び論理学的に立証された発明の否認には、当然その否認に関する数学的及び論理学的立証責任があるのにかかわらず、審決はその具体的、学理的立証の根拠を示さず、抽象的独断的な発明の事実の否認に終始したのは、不当である。
(五) 審決は、「本件の発明は、未だ特許法にいう工業的発明を構成するに到らないもので、同法第一条に規定する特許要件を具備するものとなし得ない。」と説示している。しかしながら、原告等の発明が、右「工業的」要件を具備しないという理由は、内示された拒絶審決理由としては欠いていたのに、審決の追加論として、突然増加されたもので、右は特許法第百十三条第一項、第七十二条に違反したものである。すなわち原査定の拒絶理由は、「数段階に亘る暗号使用の通信は、従来あるところであつて、特許法第一条の特許要件を具備しないものと認める。」というのであり、内示拒絶審決理由にも、特許要件「産業的」または「工業的」不備の問題はなかつた。しかるに審決は、従来全然欠けていた「工業的」要件を理由として補充したものである。
(六) 審決は、「なお抗告審判請求人は、本件にかかる電信暗号は、工業原料及びその製品を取り扱う商取引に利用するものであるから、工業的発明であると(中略)主張しているが、商取引が工業に関したものであるからといつて、これに利用する電信暗号が工業的であると見るべきではない。」と説示している。
しかしながら右は工業の観念を誤つた謬論である。電信暗号は、直接「工業」上に利用されているものであるから、これに関する本件発明が、いわゆる「工業的」でもあることは自明の理である。元来「工業」とは、「工」を「業」としたことを意味するものであつて、自給自足を目的とした工作の観念ではなく、他人への供給を主眼とした工作観念である。従つて自己の製作にかかる製品の販売行為は、他人の製作品の販売行為とは異り、当該工業の最後の段階に属する必要事務であり、当該工業自体である。同様に、自己用工業原料の買入行為は、当該工業の最初の段階に属する当該工業事務である。故に、それら自己製作品または自己用工業原料の売買行為は、工業事務であり、従つてまたその事務に利用し得る電信暗号に関する発明は、直接工業上に利用し得るものに外ならない。審決は、これら売買行為は、いずれもそれ自体は商行為に相違はないが、商業事務そのものでなく、工業事務そのものであるという区別を誤まつた違法がある。
(七) 審決は、「抗告審判請求人は、(中略)特許法第三十三条の規定により、万国工業所有権保護同盟条約第一条第三項の規定を援用し、工業所有権が商業にも及ぶものであるから、本件の発明は、特許権の対象となり得る旨を主張しているが、(中略)本件のような作製方法は、工的(技術的)性質を有しないから、工業的発明とは認められない。」と説示している。
しかしながら右は一方においてはわが国の加盟している万国工業所有権保護同盟条約第一条第三項違反であり、また特許法第三十三条及び日本国憲法第九十八条第二項違反であるとともに、他方において、改正によつて既に失効した旧法規を適用した違法がある。すなわち万国工業所有権保護同盟条約第一条第一項は、特許権をも含んだ工業所有権の保護の対象たるべき利益(特許権としては発明)の性質として、商業をも含んだ最も広い意味の「産業」にも及ぶべきことを要請した規定である。そして特許要件「工業的」または「産業的」は、特許権として保護責任ある利益すなわち発明の性質に関する条件に外ならないから、当然上記条約の規定の拘束を受けなければならない。そして右条約のわが国に関する実施期日である昭和十三年七月十七日以後において、依然特許要件「工業的」を適用した審決は、疑もなく、右条約第一条第三項違反であり、同時に特許法第三十三条、日本国憲法第九十八条第二項違反であり、従つて憲法第九十八条第一項によつて、少くもその点に関する限り、当然無効である。特許法第一条の「工業的」は、昭和十三年七月二十六日万国工業所有権保護同盟条約が公布により、国内法化されるとともに、その特許要件「産業的」と抵触し、当然失効して、その結果国内法としての新法規たる「産業的」に改正せられた。そして国内法化した新法規の施行期日は、原条約の実施期日と同日でなければならないが、前述のように国内法化たる条約の公布が、その実施期日より九日遅れておるので、その期間においては、特許法第三十三条、日本国憲法第九十八条第二項によつた条約自体の準用を必要としたものである。以上の見地からしても、審決は、当然その範囲において無効だといわなければならない。
(八) 審決は、「また本邦における工業所有権は、特許権の外に、実用新案権、意匠権及び商標権を包含するものである。」といつている。
しかし右の説示も前記条約第一条第二項の規定を無視した違法がある。すなわち、同条項は、「工業所有権ノ保護ハ発明特許、実用新案、工業的意匠又ハ雛形、製造標又は商標、商号及原産地ノ表示又ハ出所ノ称呼並ニ不正競争ノ防止ヲ目的トスル。」と規定している。条約の各規定遵守は、締約各国の義務であるから、わが国の工業所有権に関する観念や態度も、当然条約の規定に一致せしめなければならないのに、審決の前述の所説は、条約の規定に完全な一致を得たものでない。
(九) 審決は、「工業所有権の対象となり得るものでも、特許権の対象となり得ない場合があるもので、前記の条約の規定によるも、本件の発明にかかる電信暗号は、特許権の対象となり得ない場合と認められる。」と説示している。
しかしながら右の説示は、いかなる法理上の根拠によるものかが全然示されていず、結局法理の根拠によらない違法がある。右説示前段の如きは、論理学上から云つても、真の命題ではなく全く偽の命題であつて、若し右が「実用新案権または意匠権の対象となり得るものも、特許権の対象となり得ない場合もある。」との命題との混同から生じたものならば、「工業所有権のある一部は、その他の一部分の対象となり得ない場合もある。」となすべきであつて、つまるところ、上記命題は、特許要件「産業的」否定論の援助として、上記条約規定の利用は断じて不可能であることに注意されなかつた審決の不当さを物語るものである。
(一〇) 最後に特許法第十五条第一項は、「軍事上若ハ公益上必要ナル発明ハ特許ヲ受クルノ権利ヲ政府ニオイテ収用シ、又ハ制限ヲ附シテ特許ヲ与ウルコトヲ得。」と規定しており、原告等の発明は、前記(一)にも述べたように、わが国の外交上、軍事上の機密通信及び工業上、産業等に利用し得べきものであつたにもかかわらず、昭和十五年七月十日の特許出願以来、未だ曾て本件の発明と上述の法規との関係に関する審理の結果を明かにしなかつた特許庁の拒絶査定または拒絶審決には、少くとも審理不尽の違法があるものといわなければならない。
第三被告の答弁
被告代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の請求原因事実に対し次のように述べた。
一、原告の請求原因一主張の事実は、これを認める。
二、同二に対しては、次のように答える。
(一)、原告等の出願にかかる明細書全体を通読するに、その発明の要旨であると記載しているところは、和文字、数字及び記号等の組合せによる隠語の構成、特長、効果等についていろいろ列記したものであつて、結局は審決に述べたとおり、和文字、数字及び記号を適当に組み合せて、電報用の暗号を作製する方法を、その発明の要旨とするものと認定せざるを得ない。
(二)ないし(六)、元来特許法第一条に規定されている工業的発明というのは、自然法則の利用によつて一定の文化目的を達するに適する技術的考案であつて、それが寄与し、貢献し、利用せられる産業の種別については格別の制限はないとしても、その利用の態様はあくまで技術産業的であるべきであり、あらゆる産業に寄与し得べき工夫考案のうち、このような性質をおびた発明のみに限定される。
しかるに本件出願の発明要旨とするところは、前述のとおり、和文字、数字及び記号を適宜組み合せて、電報用の暗号を作成する方法であり、何等自然力を利用することもなく、単に特殊の組立による暗号を以つて思想を表現する方法にすぎない。従つてこのような発明が、特許法第一条に規定している工業的発明に該当するものでないことは明かである。
(七)ないし(九)、万国工業所有権保護同盟条約第一条第二項及び第三項の規定は、この条約にいう工業所有権の範囲を規定したものであつて、この規定があることによつて、原告等の出願のような暗号による思想の表現方法をも、特許法第一条に規定する工業的発明であると解しなければならない理由は全然ない。
(一〇)、特許法第十五条の規定は、同法第一条に規定する特許要件を具備している発明について、公益上必要なものに対して適用される規定であつて、本件のように特許要件を具備していないものについては、何等関係のないことである。
三、理 由
一、原告主張の請求原因一の事実は、当事者間に争がない。
二、特許庁から送付して来た原告等の特許出願及び抗告審判請求に関する記録について、調査するに、原告等の出願にかかる発明の要旨は、
(1) 同一の代表番号を有する通信語句と隠語との置代えにより、各通信語句の隠語化またはその逆の各隠語の通信語句化を完成すること。
(2) 和文字電報隠語として使用することができる一切の文字(濁点または半濁点を有する、発音可能のものまたは不可能のものをも含む。)数字または記号の全部を利用すること。
(3) 和文字電報隠語として使用することができる一切の文字、数字または記号の各個に対し、或は隠語としての(イ)代表番号、或は関係各隠語の一体化(即ち完全数値への組立)、一団化(即ち二個の完全数値、換言すれば独立数値の結合)一節化(即ち二個以上の結合隠語の使用に代える、または一節内の全完全数値を結合する連結)若くは零(一桁または数桁の)、小数、分数等の如く、一方においては、一種の数値隠語たると同時に、他方においては、組立隠語の性質をも兼有する(ロ)特殊使命を附与すること。
(4) 適当なる数値隠語の二個またはそれ以上を竝列し、各数値隠語の中間に、原則として組立隠語を介入せしめて、任意の合成隠語を作成し、以つて現実の隠語を有しない大数からなる代表番号、または複雑な数値の隠語的表現を完成すること。
(5) 全電文を、原則として、特定の順序における、特定数の節に区分し、その各節に対し、特種の使命を附与すること。
(6) 電文各節の区分を、隠語の状態においても、よく明白ならしめること。
(7) 実際に使用せる各通信語句の代表番号数値の、完全な合計数を、第一自家照校資料として、電文末に附記すること。
(8) 実際に使用せる電文各節の数を、第二自家照校資料として、第一自家照校資料の次に附記すること。
(9) 当該電報または通信の内容としての重要性最大な、または実際に使用せる通信語句の最輻輳せる、特種節のみにおける代表番号数値の合計数を、第三自家照校資料として、電文の最後に附記することを得ること。
(10) 単に基本隠語(単複両数値隠語及び使命隠語の総称)表の変更のみにより、全隠語の変更を完成し得ること。
(11) 例題に使用したような発信または受信隠語電報草案用紙を使用し得ること。
(12) 単に電報隠語に限定することなく、その他一切の隠語的意思表示にも利用できること。
から成る和文字単一電報隠語作成方法であつて、(特許出願明細書訂正願添附の特許明細書参照)その主な目的は、
(1) 正当の受信人以外には、何人にも絶対に判読を不可能ならしめること。
(2) 受信の誤電を容易に発見し得ること。
(3) 電報料金を節約すること。
にあるものであることが認められる。
前記記録中にある審決書によれば、審決においても、原告等の発明の要旨を右のとおり認定しておるものであつて、次いで「本件発明の要旨とするところは」として、原告主張(一)のように記載しているが、右は単純に、発明の骨子、あらすじを抜き書きしたもので、特許法上いわゆる発明の要旨を認定摘示したものでないことは、行文上明白であるから、原告主張(一)の非難は当らない。
三、特許権第一条にいう工業的発明とは、自然法則の利用によつて、一定の文化目的を達するに適する、独創的な技術的考案であると解せられるところ、(最高裁判所昭和二十五年(オ)第八〇号判決参照)原告等の発明は、前段に認定した発明の要旨の全体を見ても、何等新らしい物の製作またはその方法に関係のないのはもちろん、その間何等の装置をも用いるものでなく、到底自然法則を利用した、技術的考案には該当しないものといわなければならない。そして審決が、原告等の出願は、自然力を利用した手段(技術的手段)を施すことができないから、未だ特許法にいう工業的発明を構成しないといつているのは、ひつきよう、前述の説示と全く同一の思想を言い表わしているものと解せられる。
原告は、原告等の発明は、在来のすべての電報暗号が到底達成し得なかつた、前段認定の三大目的の達成に成功した、超天文学的数字ではじめて表明し得る多数の変種暗号を有する和文字可変暗号の作成方法であつて、論理学及び数学の原理を利用して始めて成功したものであり、かつ、右電報暗号は、直接工業上利用せられると主張するが、前述の発明の要旨及び、原告等の明細書を精読しても、原告等の考案のうちに認められる論理学及び数学の原理の利用は、未だ直ちにそれを以て、自然法則、自然力の利用であるとは認められないし、また原告等の考案が、精緻を極め、電報暗号として前人未踏の地を拓いたものであり、更に、これが原告が(六)で主張するような用途に利用されたとしても、考案自体が自然法則を利用した、技術的考案でない以上、特許能力を有するものでないことは、前段に説明するとおりであるから、原告の主張(二)、(三)、(四)及び(六)は、その理由がない。
四、原告は、審決が、工業的要件の具備しないことを理由として、原告等の発明を特許すべからざるものとしたのは、特許法第百十三条第一項、第七十二条に違反したものであると主張するが、前記記録中抗告審判官のなした拒絶理由通知書には、原告等の出願の方法には、何等の装置を用いず、また自然力を施すものでないから、工業的発明を構成するものでない趣旨が明記されているばかりでなく、この問題は、すでに当初特許出願以来、原告等が、その特許願、特許出願明細書訂正願及び抗告審判における拒絶理由通知に対する意見書補遺において、極めて詳細に論じ尽して来た問題であることが認められるから、原告の右主張(五)は、到底採用の限りでない。
五、原告は、更に万国工業所有権保護同盟条約第一条第三項の規定を引いて、審決を非難しているが、同条約第一条第三項の規定は、同条第二項の規定が、同条約の目的を明らかにした後を受けて、同条第四項とともに、同条約中に使用される工業所有権及び発明特許の意義を明かにしたものであつて、これにより同盟各国の国内法に使用されている工業所有権及び特許権の内容を、同条項の規定するように改正する趣旨のものでないことは、同条約全文の構成上明かであり、従つて同条項が特許法第三十三条にいわゆる「条約ニ別段ノ規定ガアルトキ」に該当しないことは、いうをまたないから、(前掲最高裁判所判決参照)原告主張(七)(八)(九)は、採用することができない。
六、最後に原告は、改正前の特許法第十五条第一項の規定を引いて、審決を非難しているが、右の規定は発明が特許を与えるに足るものであることを前提としているものであるばかりでなく、これに関する手続は、特許出願に対する許否の手続とは全然別途のものであるから(特許収用令参照)、これを以つて出願拒絶査定不服の抗告審判の審決に対する不服の事由とすることはできない。
以上の理由により、審決には、原告の主張するような違法はないから、原告の本訴請求は棄却を免れず、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 角村克巳 原増司)